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「何、ぼんやりしてたんだ?」  行進を見送り、曲を終えると、俺はそいつを問い質した。  トランペットはぼんやりとした目で俺を見上げると、次の瞬間顔をくしゃりと歪め――慟哭した。崩れ落ちて、拳で硬い地面を叩く。  嗚咽とポーランド語――ポーランド語なのにラテン語だ(訳が分からない)、これは傑作――の間からなんとか拾い出した、意味をなす単語。「私の(マイネ・)(フラウ)」「あの(イン・デア)列に(・ライエ)」。トランペットが指さす先の、不吉な煙突。  ――ああ。  俺は理解した。そして、さっきのように肩をすくめる。 「遅かれ早かれあんたも同じところに行くんだ。悲しむことじゃないさ」  トランペットは俺のドイツ語を理解したかどうか。  答えを聞く前に、俺の囚人番号が呼ばれた。そうだ、俺は名前もなくしていた。 「お前はあっちだ」  見慣れた褐色の制服。眩しい金の髪と碧の瞳。後世に遺伝子を伝えるべき見事なアーリア人。そのSSが示した先は。  煙突への道。  俺は三度目に肩をすくめた。呆然と俺を見上げるトランペットに、笑いかける。 「ほらな」  次いで、SSにも笑いかける。すると、そいつはぎょっとしたように一歩退いた。そして言い訳のように、呟く。 「今日到着する中にヴァイオリン奏者がいるんだ。悪く思うな」  怯えているのか? こんな痩せこけたヴァイオリン弾き、薄汚いユダ公を相手に。ご大層に武装している癖に? 罪悪感? まさかそんなはずはないか。 「こいつは連れて行きますよ」  寒暖にさらされ、日光を浴びて。すっかり痛んでしまった愛器を示す。それなりに値の張るやつだったのに哀れなもんだ。  SSの返事を待たずに歩き出す。ヴァイオリンを構えて。  ――本当の、俺の音楽だ。  俺が奏でる、俺のための。  人生を締めくくるに相応しいのは? さあ、どの曲を弾こう。  俺は頭の中の譜面を一心にめくり始めた。
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