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「じゃあ、メイクだね」
香澄がポーチを出してくる。パンパンに膨れたそのポーチにはたくさんのメイク道具が入っていた。
「前髪が今より短くなるから、眉も見える。だから、もう少し変えよう。今、まっすぐに近いから、少し眉尻を柔らかくカーブさせて、色も茶色にしてみよう」
言いながら、香澄はてきぱきと私の前髪をピンでとめて、眉を整えだした。クッキーが面白そうにこちらを見ている。
「それで、アイメイクは……」
と言い出した香澄に、
「ごめん! 私、アイメイクは面倒だから、いいや」
「そうなの? 変わると思うけど無理強いはできないね。それじゃ、チーク。これだけは絶対入れたほうがいいから! 顔色よくなるし、可愛くなれる!」
香澄は私の頬の高いところにふんわりとピンクベージュのチークを入れた。
「ほら、いい感じ!」
私も鏡を覗いて、ちょっと目を見張る。確かに健康的で可愛い感じだ。
「口紅もこの色に近い、明るめの……」
リップブラシで塗られた色は、いつもの私の口紅よりかなり明るくて私は躊躇ったけれど、鏡の中の私はいつもより雰囲気が柔らかく、肌もきれいに見えた。
「ほら、断然こっちのほうがよくない?」
「そうだね」
可愛くメイクされると、真っ黒な髪が逆に浮いて見えた。
「はい、メモして。これとこれをドラッグストアで買って帰ること」
私は神妙な面持ちで頷いた。
「理緒は彼氏はいるの?」
「いない〜! いつも不毛な片想いばかりで」
私の返事に香澄は、
「じゃあ、これを機にできちゃうかも?」
と笑った。私は自分に自信がないせいか、なかなか恋愛に積極的になれない。でも、イメチェンしたら変われるだろうか。恋できるだろうか。
「香澄は彼氏いるの?」
「うん。大学の時から付き合ってる彼がいる。遠距離だからちょっと大変」
「そうなんだ」
「でもお互いの気持ち次第だよ」
そう言った香澄は恋する乙女の顔をしていた。本当に彼が好きなんだろうな。
「じゃ、美容室行こう。私はクッキーのお散歩がてらついていくけど、そのまま帰るから」
香澄に案内された美容室は自分では行かないようなオシャレな美容室だった。
「月曜日、会社で会えるのが楽しみ~!」
香澄にそう言われて背中を押され、私はドキドキしながら雑誌を手に美容室に入った。
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