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長引いた風邪
月曜日。
鏡には見慣れない髪型とメイクの私が映っていた。でも、おかしくはない、と思う。どんな反応されるんだろうとドキドキしながら、担当の大学病院に行った。
駐車場で今野さんに会った。
「え? 鈴木さん?」
今野さんは驚いた顔をして、
「誰だかわからなかったよ! でも、いいね。女性らしい感じで!」
と言ってくれた。恥ずかしかったが嬉しかった。
ドクターの反応もかなり上々だった。
「お~、鈴木さんイメチェンしたんだ」
塩屋先生が声をかけてきたときは少し驚いた。
「いいんじゃん? 今の方が」
「ありがとうございます。処方もお願いします!」
「それとこれは別〜」
塩屋先生はそう言って階段を下りて行った。
3階の循環器内科の医局に入ろうとしたときは、出てきた沢野先生に声をかけられた。
「あれ? 鈴木さん、髪切りました? 可愛いですね」
沢野先生は人当たりがよく、時間があれば製品の説明も根気強く聞いてくれる、循環器内科のドクターだ。私は頬が熱くなるのを感じた。可愛いなんて言われるとは思わなかった。
「あ、ありがとうございます」
私が深々と頭を下げると、沢野先生は優しく微笑んだ。
「あの、高血圧の患者さんがいらっしゃったら……」
「はい、エクサシールでしたね! 処方、考えますね!」
にっこり言われ、私はほっとした。沢野先生は数少ない癒し系のドクターで、朝会えると安心する。
医局に入ってからも、数人の先生とMRと話が弾み、気分上々で駐車場へ戻っている時だった。
「しっぽは?」
後ろから声をかけられ、声ですぐに鈴木だとわかった。
「切ったからない」
「ふ~ん、なんで?」
鈴木は面白くなさそうだった。
「イメチェンしてみることにしたの」
「別に関係ないけど、似合わない」
今日、初めての不評なコメントだった。私は少しむっとして、
「鈴木に言われたくない」
と振り返った。
「……振り返るなよ」
少し顔の赤い鈴木がいた。
「……しっぽがなけりゃ引っ張れないでしょ」
鈴木は私を追い越して、行ってしまった。
「何なの? あいつ?」
鈴木のこと、未だに時々わからない。
支店に戻ると、同期や他のチームの営業マンからも、
「印象変わったね! その方がいいよ!」
と声をかけられた。香澄が小さく親指を立ててこちらを見た。私もこっそり親指を立てて応じた。
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