私は女MR

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*** 「鈴木さん、少し一人で回ってみる?」  MR認定試験に何とか合格し、本格的に営業をするようになってから二ヶ月ほど経ったある日、今野さんから言われた。不安はある。でも。 「やってみます」    午前の営業時間のときは一人で回ることが少しずつ増えた。今野さんが話しかけたときと私が話しかけたときではドクターの対応がこんなにも違うのかとショックを受ける。  話しかけてもなかなか相手にされない私は、エレベーターホールでひたすらドクターたちに挨拶をすることを繰り返した。最初のうちは挨拶を返してくれるドクターはほとんどいなかった。研修医は軽く会釈をして返してくれるが、慣れてくると彼らも挨拶をしなくなっていく。  少し話せるようになったドクターは逆に挨拶を返してくれるようになる。  各階でしばらくドクターを待ち、会えないようだったら階を変えていくのだが、待っている時には同じように待っているMRと話をすることもある。私と情報交換をしてくれるMRはまれだ。エレベーターホールに鈴木君がいると、私はそこの階に寄って、 「どんな感じ?」  と声をかけた。鈴木君もぼんやりドクターを待っている時が多く、私が話しかけると少し嬉しそうに受け答えする。逆もあった。また、白崎さんも私を見ると気遣って声をかけてくれた。  アオハナ社のMRと今野さんが仲よくしているのは、薬が競合していないからだと後で気付かされた。鈴木君とは同い年なのもあって気楽に話せる仲になっていった。     
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