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小さな本屋
行きつけの小さな本屋に入ると、いつもと何かが違っていた。なんとなく落ち着かないような、逆に居心地がいいような……。いつも真っ先にチェックする棚の前に立つと、その理由はすぐにわかった。
「平積みの本が、ずれてる……」
私は無意識にそうつぶやいた。言ってみると、確かにそうだ。私はしばし呆然と棚を眺めた。
平積みの本がまっすぐに積まれているか、ところどころずれているか。ずれているといっても数ミリ程度だ。たったそれだけの違いで、本棚全体の印象がこうも変わってしまうものなのだろうか。
たぶんさっき感じたのは、部屋が汚くなり始めたときの気分だったのだろうと思い当たった。
思い返せば、私の傍にはいつも整理整頓が趣味のようなひとがいた。そのひとがいなくなってから、私の部屋は少しずつ汚れていったのだ。この本屋も、そうなのだろうか。
私はこのとき初めて、この本屋で本以外のものに興味を持ち始めていた。今まで本がきれいに揃っていたのは、きっと偶然じゃない。私は平積みの本の中から一冊を手に取ってレジへ向かった。もうそのひとはいないかもしれないけれど、今日からは、がんばって店員さんの顔を見るようにしよう。今日は、練習だ。そして、もし、またきれいに揃う日が来たら、そのときは……。
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