一人暮らし

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僕は今でもここにいる 君と暮らした狭い部屋 クーラーひとつない場所に 古びた網戸に吹く風と タイマーをかけた扇風機で 寝苦しい夜も越せたよね 高いベッドは買えないし 綺麗な庭もないけれど 台所に立つ君の背中を 眺める時間が好きだった 後輩の結婚式のこと 迷子の子猫のこと 親戚の遭った詐欺のこと 他愛のない話をぽろぽろと 君はいつでも頷いて 気の効いた相槌を打ったね 腹の虫が騒ぎだすころ 次第に漂ういい匂い 僕は床に転がって 早く早くと食事をせがんだ 夏になると時々君は 窓の外を眺めるようになった ふと目が覚めた真夜中に いない君を探しに行くと 開け放った窓辺に立って 遠い夜空を見上げていたね 君は寝言を言わないし 愚痴ったこともないけれど 抱えきれない重い荷物を その背にきっと背負っていた 僕は今でもここにいる 君と暮らした狭い部屋 寝苦しい夜は窓辺に立って 遠くの星を見上げよう 僕は今でも待っている 君のただいまが響く日を
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