1人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は今でもここにいる
君と暮らした狭い部屋
クーラーひとつない場所に
古びた網戸に吹く風と
タイマーをかけた扇風機で
寝苦しい夜も越せたよね
高いベッドは買えないし
綺麗な庭もないけれど
台所に立つ君の背中を
眺める時間が好きだった
後輩の結婚式のこと
迷子の子猫のこと
親戚の遭った詐欺のこと
他愛のない話をぽろぽろと
君はいつでも頷いて
気の効いた相槌を打ったね
腹の虫が騒ぎだすころ
次第に漂ういい匂い
僕は床に転がって
早く早くと食事をせがんだ
夏になると時々君は
窓の外を眺めるようになった
ふと目が覚めた真夜中に
いない君を探しに行くと
開け放った窓辺に立って
遠い夜空を見上げていたね
君は寝言を言わないし
愚痴ったこともないけれど
抱えきれない重い荷物を
その背にきっと背負っていた
僕は今でもここにいる
君と暮らした狭い部屋
寝苦しい夜は窓辺に立って
遠くの星を見上げよう
僕は今でも待っている
君のただいまが響く日を
最初のコメントを投稿しよう!