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 確かに繊細な人だったのだろう。よく泣いたり些細な事象を不安がったり、長い間じっと床に座って呆けていたりする、おそらくそういう人のことを言う。母は繊細な人だった。  それなら俺は無神経な人だなぁと一人合点して笑った林に、それはどうだろうねと指導員は言った。人間の精神構造はとても複雑で、医学という学問の上では日夜分析と命名が進んでいるけれども、目鼻の位置や爪の形みたいにヒトの数だけパターンがあって、占い事のように二言三言で表せる代物ではないのだそうだ。  児童養護施設には、親の元で育つことが難しい児童が住んでいる、と林は聞いている。難しい理由は個々に異なる。  入所者は小学生以下の子供が多く、中学生が全体の一割程度で、高校生は五パーセントにも満たない。一人一人がどういう経緯で入所していつまで滞在する見通しなのか、林は知らない。立地が近く交通の便が良い点と、制度の上で連携が整っている点から、この施設には林の通う高校の生徒が過去にもいたそうだが、既に巣立った彼ら彼女らの部屋はない。     
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