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 テスト中に余所見をすることは許されない。カンニングを疑われる。だが林は解答欄をすべて埋め終わり、見直しも二回済ませてひまである。気になる。  期末試験の最後の科目は化学だった。  あと数分で五日間に亘る試験期間が終了するからか、林がわりと化学を得意としているからか、このクラスの担任でもある宇野先生が三か月前から衣替えしないよれよれの白衣を着ているからか、どうも緊張感がない。気になる。  暑気と沈黙が充満した教室に割り込んだタイマーの電子音を、タイマーを所持している宇野先生が止めた。  手ぇ止めろ、えんぴつ置け、紙集めろ―――大半の生徒は鉛筆を使用していないが、人々は宇野先生の言わんとすることを理解したようで、筆記用具を放り出す音があちこちで鳴った。机の列の最後尾に着席している人が答案用紙を回収していく。その時になってやっと林は右斜め後ろを振り向いた。  そこには成田さんがいる。他クラスよりも圧倒的に男子比率が高いD組の臭気を浄化する一人だ。  成田さんは虹色のナメクジか何かのチャームが付いたシャーペンをペンケースに入れているところで、左斜め前を見てはいなかった。     
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