第一話 母の背

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第一話 母の背

 都内のある高校に通う下畠(したばた)さんから聞いた話しだ。  下畠さんは父と母と3人で暮らしているが幼い頃は家の中にもう1人の女の人がいると思っていたという、幼かったので正確な年齢は覚えていないが幼稚園に入っていた頃まではもう1人の女の人が見えていた。  その女の人はいつも母の背から顔を覗かせるようにして現われた。  ニコニコと笑っていて下畠は幼心に優しいおばちゃんだと思っていた。 「おばちゃん居るよ」  洗濯物を抱えてきた母の右肩の辺りに女の顔が見えて下畠が指差した。 「おばちゃん? 誰か訪ねてきたの? 」  洗濯物を置いて母は玄関へと向かう、 「誰も来てないじゃない」  母が部屋に戻ってきたときには女の顔は消えていた。  この様な事が日に何度もあったという、トイレから出てきた母の右肩に女の顔があったり、買い物から帰ってきた母の左肩に女が見えたり様々だが女が顔を見せるのは決まって母の後ろからだ。  母の後ろ、右や左どちらかの肩の上から顔を出す。ひょこっと見えたと思ったらいつの間にか消えている。見えるのは顔と首と母の肩に手を掛けている指先だけだ。     
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