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毎日のように見えていた女だが下畠が小学校に入った頃から見えなくなったという、下畠は家を出ていったのだと別段気にも掛けなかった。女はニコニコ笑っているだけで話しなどはした事がなかったので下畠にとっては居ても居なくても同じようなものだったのだ。小学校が始まって楽しい毎日に女の事など直ぐに忘れてしまった。
中学生になった下畠は2年生の冬にインフルエンザに掛かって高い熱を出して寝込んでいた。
「だいぶ楽になったけどまだクラクラするなぁ」
病院へ行って治療して貰って熱は下がったが頭も痛く体もフラついて何も出来ずに眠っていると部屋に母が入って来た。
「大丈夫? お腹減ってない? ゼリーの奴とドリンク買ってきたわよ」
朝から何も食べていない下畠にゼリー飲料とスポーツドリンクを持ってきてくれたのだ。
「まだフラフラする。ゼリーはいいや、喉渇いた」
「汗かいてない? 着替えて熱を測りましょう」
下畠の上半身を起させて服を着替えさせると母が体温計を差し出した。
「熱はだいぶん下がったと思う…… 」
ペットボトルに入ったスポーツドリンクを直に飲みながら体温計で熱を測っていると母の肩の辺りに何かが見えた。
「ぶへっ!? 」
むせるようにペットボトルを口から離す下畠に母が慌ててタオルを渡す。
「大丈夫? 気管に入ったのね」
心配する母の右肩の上に女の顔があった。
肩の上くらいのショートカットの髪に恨めしげな真っ青な顔をした女だ。澱んだ黒眼でじっと下畠を見つめて紫色の唇を横に広げてニタニタとバカにしたように笑っている。
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