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おっさんにも驚いたがそれ以上に自分のおやつを食べられた事に悲しんで居間にいる母に泣き付いた。
話しを聞いた母親はそんな事があるわけはないと黒川を宥めながら台所へ行くと戸棚を開ける。母の後ろから黒川も覗くがおっさんなど居なかった。
「ほら、何も無いじゃない」
母が戸棚からサツマイモを取り出してテーブルへと置いた。
「ほら食べなさい…… 」
サツマイモを手に取った母親が顔を顰める。
「あんたが食べたの? 」
サツマイモに歯形が付いていた。
「違うよ、僕食べたりしないよ」
3つあったサツマイモの全てが2~3口ほど齧られていた。
「やっぱり、おっさんだ。おっさんが食べたんだ」
「おっさんなんて居るわけないでしょ、だいたい人が入れるわけないじゃない、あんたが悪戯したんでしょ」
黒川は悪戯したと母に叱られた。
確かに見た。窮屈そうに身を縮めて戸棚に入っているおっさんを、顔の前にある皿に載ったサツマイモを口だけでモソモソ頬張っているおっさんを、黒川は確かに見たのだ。
幽霊か妖怪か、あのおっさんが何者だったのかは分からない、だが大人になった今でも戸棚は少し苦手だと言って黒川さんは笑った。
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