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第四話 戸棚
今年で70歳になる黒川さんが子供の頃の話しだ。
黒川さんは小学校から帰ると真っ先に台所にある食器棚の戸棚を開けるのが楽しみだった。おやつが置いてあったからである。
今の子供たちが食べているおやつとは違い黒川さんが子供の頃は団子や饅頭といった甘いものからあられや煎餅、蒸かしたサツマイモや茹でたトウモロコシなど素朴なものばかりだ。種類も少なく同じようなものがローテーションで戸棚の中に入っていた。
ある日、学校から帰ってきた黒川はいつものように真っ先に台所へ行って蛇口を捻って水を出し手を洗うとそのまま掬って水を飲む、手拭いで手を拭くと食器棚に手を掛けた。
「今日は何かな? 饅頭だといいなぁ」
期待しながら食器棚の戸棚を開く、
「 ??? 」
戸棚の引き戸に手を掛けたまま黒川が身を固くした。
おやつではなく青白い顔をしたおっさんが入っていた。食器棚の狭い空間に青白い顔の中年男が横向きにみっちりと詰まっている。
「ふへっ!? 」
黒川は状況が飲み込めずに変な悲鳴が出た。
横になったおっさんはサツマイモをモソモソと頬張っていた。黒川のおやつだ。
「おやつが……母ちゃん、僕のおやつがぁ~~ 」
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