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こんなおかしな話を聞かされて。
相手は家出少女なのに。
しかし私の手は空を掻いた。
飛び上がるようにフィガロが私を強く抱きしめたからだ。
「フィガ…」
「お前は正しかった。私は恋してたんじゃないからだ。愛してた」
「…私も…かなあ」
「かなあじゃない。愛してくれた。大丈夫だ。お前は今回だって幸せになれる」
耳元で告げ、パッと少女が離れる。
生まれて一度も彼氏ができたことはない。それがずっとコンプレックスだった。
もしかして一生一人かもしれないと感じ始めていた不安が少女の一言で不思議とぬぐい取られる。
床に置かれたスマホが鳴った。
「迎えが来たから。見送りはいらない。お姉さんありがとう」
人が変わったように言って、フィガロは素早くパンプスに足をかける。
「もう行くの」
「早く行かないとパパが待ってる」
会話がかみ合わなくてもどかしい。
私はこの少女に何か言うべきことがあるんじゃないだろうか。
引きとめようとすると少女は手際よく鍵を開け玄関の向こうに消えた。
呆然とその場に残される。
我に返って玄関に駆け寄った。
勢いよく扉を開き枯れかけたストロボの夜に目を凝らす。
街灯の下に少女がいた。
「フィガロ!っ見つけてくれて…私を見つけてくれて!ありがとう!」
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