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切れかけの街灯がストロボスコープのように点滅している。
しかしその光はストロボほどの鮮烈さはなく、かすれた白い光に田畑や民家が闇の中に浮かんでは消えた。
視界は悪い。でも周りが見えないわけではないので私は黙って歩く。
切れた街灯を直して欲しい時は誰に連絡すればいいんだろう。
でも私がそう考えているうちに大抵そういうものはいつの間にか直っている。
都会の職場から敢えて選んだ明かりの少ない田舎町へ帰ると、自然の暗さが心地よく1日高ぶっていた心が静まる。アパートまであと少しだ。
自分の家が見えてほっと一息つく。
すると黒猫が車道を横切るのに私は気づいた。
どこかの家猫が飛び出したのかも知れない。
点滅する街灯のせいでその姿は切れ切れにしか捉えられなかった。
小さな黒猫のシルエットが暗い車線を行く、その走りにヒヤヒヤする。
夜間とはいえ車が全く通らないわけではない。
渡り終えるまで見届けようと目を凝らした。
等間隔でまたたく街灯のせいで猫は短い距離をワープしているようだ。
見失わないよう目を細める。
その点滅の合間におかしなものを見た。
「嘘だ…」
思わず呟く。全身が総毛立つ。
ありえないことが目の前で起きていた。
見えたのはダーウィンの進化論の図のようなものだ。
点滅に合わせて小さくワープする子猫はある瞬間二本足で立ち上がり、次の瞬間に背中が妙に盛り上がり、背が伸びたと思うと、少女のシルエットをなし、歩道へたどり着く頃には人間の姿になる。
気づくと緑色に光るキャットアイが歩道の先からこちらをじっと見つめている。
ストロボライトの下で少女になった猫のかけている半月型のメガネが光る。
恐怖に体がすくむ。猫が人になった。
疲れているとはいえそんな見間違いはしない。
しかもその少女は銀色の長い髪をなびかせて、自分を待ち構えている。
「瞳。待っていた」
少女は言う。
なぜ私の名前を知っているのだろう。
街灯が暗転しても猫のような目と半月形のメガネが暗闇に浮かんでいる。
「誰…ですか」
かろうじて尋ねると少女の唇が弧を描く。
「私はフィガロ。お前の前世の恋人だ」
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