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もしかして家出かもしれない。
「ここらへんに遊び場があるの?」
カップに湯を注ぎながら聞く。
「どうして」フィガロは言った。
「ああ、友達の家この辺りなのかな。こんな遅くまでどうしてたのかと思って。ほらここ田舎だし遊ぶとこなんにもないイメージだから」
笑って誤魔化しながら鍋をシンクに降ろす。早く眠りたかったのに。ほぼ終電で帰ってきたようなものだった。身体は疲れきっているし、はやくシャワーも浴びたかった。
でも外に放置してもしこの子に何かあったら、一生負い目を感じるに決まってる。
それよりはましだ。諦めてこの子を親へ引き渡すまで付き合おう。長すぎる1日に小さくため息をつく。
ティーパックを三角コーナーに落としマグカップに両手をかけた瞬間。
腰回りにふわりと温もりを感じる。
「ど、どうしたの」
まったくそんな気配はなかったのに、フィガロがいつの間にか背後に立ち抱きついてきた。
私はマグカップに添えた手を、何も答えない少女の手に恐る恐る重ねる。
とても冷たい手だ。
「大丈夫?手すごく冷たいけど…」
その冬の水道水のような冷たさに驚いて尋ねると、フィガロはくすくすと笑う。
「お前は相変わらずちょろいな」
さっきまでとどことなく口調が違う。
不安で動機が早くなる。
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