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あの壊れた街灯の下で少女が名乗った時の不穏さが戻ってきた。
「待って。相変わらずって何なの」
得体の知れない恐怖がよみがえる。
「お前は全て忘れている。それでも私は」
フィガロは言う。手を掴まれた。そして引っ張られる。
気づくとどういうわけかフィガロは私の唇を奪っていた。
やわらかすぎる少女の唇。
「なに…するの…?」
驚きで手が震えた。
しかしフィガロの手もまた震えているのだと一瞬あとに気づく。
初めてまともに見つめ合う。
近くで見るエメラルドグリーンの目が眼鏡越しにもとても綺麗だった。
しかしその表情になぜか胸が締め付けられる。
どうしてこの子はこんなに苦しそうな顔で私にキスをするのだろう。
離して、という言葉はその表情に口から出ることはなかった。
「生まれ変わるなら今度は、お前に必要とされる姿に生まれたいと思ってた」
深く沈んだ声に胸が震える。この子はおかしい。
「…ごめん。言ってることよくわからないよ」
後ずさろうとする私の腕を少女の手が有無を言わせず掴む。
「あと30分なんだ。人の姿で居られるのは。だから聞け。30分たてば開放する。頼む、瞳」
「…どういうこと」
そんな言葉で大人しく話をきく私は間違ってるかもしれない。どうしてこう思うのか。でも聞かなきゃ。
「あと少ししかここにいられないってことだ。そう言ってるだろ。…相変わらずお前は馬鹿だな」
" 相変わらずお前は馬鹿だな "
誰かに言われた声が浮かぶ。しかしそれが誰のものかは思い出せない。
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