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「お前は子供の頃、神様にお願いしただろ。どうしても猫が欲しいって」
「そんなこと…」
小学生の頃、猫ブームが来た。
私はどうしても猫が欲しかったけど、父親は猫嫌いだった。
だから飼えなくて。それでも欲しいと思っていた。その時にならそんなことを願ったかもしれない。
覚えてはいないけれど。
「だから私は猫に生まれ変わることにした。お前のそばに居られるならなんでもよかったんだ。悲しい時や辛い時にお前の隣に居られるなら。でも」
冷たい少女の手が私のほほに添えられる。
それはそれは哀しそうに、少女は笑う。
「私たちは出会えなかった。野良猫から生まれた私は一度だけお前と出会う機会があった。雨の日に駅前のダンボールに入って精一杯鳴いてみたんだ。でもお前はついに私に気づかなかった」
そんなことがあったろうか。
もしあったのなら、きっと雨音にかき消されてフィガロの声に気付かなかったのかもしれない。
「あなたは猫なの」
「猫になる前は人間だった」
「…その時、私は?」
「人間だったよ。とても可愛らしい女性だった」
フィガロの言うこと信じているわけではない。でもでたらめにも思えない。
彼女の表情はとてもふざけているように見えなかったから。
「その時、私はお前の侍女だった」
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