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「メイド…さん?」
「そんなものだ」
「女だったんだ」
恋人なんて言うから前世は男の人だったのかと思っていた。
「だからまた女に生まれるなんて最悪だった。絶望だ。でも男の姿ならお前は私を部屋へ上げなかったろうな」
可笑しそうにクスリと笑う。この笑顔を、私はどこかで見たことがあるだろうか。
前世というものが本当にあるなら、私にもその記憶の断片がどこかにありはしないか。
少女の顔を見つめてみる。
やはり何も思い出せなかった。
「いっとき、私はお前の恋人だった。今はそうでなくてもその時はな。私はお前の親の決めた結婚相手の元へお前を送り出したんだよ。お前が嫌がるのを無理やりな。あとで死ぬほど後悔したけど、その方がお前は幸せだろうと…」
フィガロの顔が歪む。悔しそうに手のひらが握り込まれる。
「だからせめて来世ではと。お前に最後の手紙を書いた。お前が読んだのかはわからない」
今度は確かめるように、フィガロは私の髪を撫でる。
まるでここに私がいるのが不思議でしょうがないみたいだ。
愛おしいものを、繊細なものを壊さないように触れる手は優しい。
「…わからないよ」
私はただ困惑した。
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