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「かまわない。お前は何も変わってないことがわかった。優しくて可愛いお前だ。私はそれだけでいい」
フィガロは微笑む。
私はこんなに愛おしげに見つめられたことはない。
少女相手だというのにくすぐったくて目が泳いでしまう。
「…その、ごめんね。思い出せなくて」
謝る必要などない。
それでも申し訳ない気持ちを伝えたいと思うのはなぜだろう。
こんな風に私を想う人がこの先いるだろうか、とふと思う。
自分でもおかしいことを思っているとわかっている。
でも自然とそう思っていた。
フィガロはニヤリと笑う。
「お前はすぐそうして人を信じる。そんなだといつか騙されるぞ」
「信じて欲しいの。欲しくないの」
年下に馬鹿にされてついムッとしてしまう。
不敵に笑うこの顔をもしかすると前世の私は好きだったのかもしれない。
「信じても信じられなくても私はかまわない。お前が幸せならいい」
「無茶苦茶だよ」
「お前にはよくそう言われた。そんなの"恋"じゃないってな」
その時、フィガロの瞳孔が大きく開く。
部屋の掛け時計が午前0時の3分前を指していた。
「…時間なの?」
「ああ」
フィガロの手が離れる。
このまま背を向けて去ってしまうのではと思うと不思議と手が前に伸びた。
どうして私は引きとめようとしているんだろう。
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