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「……」  嫌じゃない。嫌じゃないから困るのだ。  こんなにも情熱的に口説かれて、ときめかないはずがないではないか。  現に押しあてられたくちびるに身体を震わせ、「抱きたい」という囁きに身体の芯が熱くなっているのだ。    ふたたび友人のことを思い出す。恋愛感情を隠し通せないまま、「ごめん」と言いながら僕を抱いて、それをなかったことにした男。友人としては最高の男だったが、恋愛相手としては、彼はあまりにも臆病すぎた。  もしもあの時の彼の言葉が、「ごめん」ではなく「好きだ」だったとしたら、ふたりの関係はいまとは違ったものになっていたのかな、とも思う。  そう思いながら、やはり僕は「好きだ」という気持ちや「抱きたい」という純粋な欲望を、傷つくことを怖れずまっすぐに伝えてくる帆夏のことを、心から好ましいと思うのだった。  答えを返さない僕に、とどめとばかりに「やっぱりキスしてもいい?」と帆夏が訊ねてくる。 「ダメ」  そう言いながら、僕は帆夏の頭を両手でぐいと引き寄せ、たっぷり五秒間、くちびるを合わせた。  チュッと音をたてて離れると、帆夏はぐったりと僕の身体の上に倒れ込んでくる。 「なんか、いまのだけで俺一生伸一さんに敵わない気がする」  力なくそうつぶやく帆夏の身体を押しのけ、「おやすみ」と背を向けた。  綿菓子みたいにふわりと甘やかな気持ちに包まれながら、僕は間もなく眠りの世界へと誘われていった。
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