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連日、残業が続いていた。
昨日の土曜日も丸一日働いて、やっと今日、休みがとれた。
「……もう、夕方だわ」
けれど昼前に目が覚めて、溜まった洗濯物にシンクに積み上がる食器類、散らかりきった室内を片付ければもう、すっかり日も暮れかけていた。
「やば、急がなきゃ」
部屋着を脱ぎ捨ててシャツとジーンズに着替えると、わたしは足早に自宅アパートを後にした。
向かうのは、図書館。
学生時代ならいざ知らず、高校を卒業して、就職をしてもう二年が経つ。
それでも図書館通いの習慣だけは、社会人になった今も抜けていない。
もしかすれば、わたしは僅かばかり勉強に未練があるのかもしれない。
本当は大学に進学がしたかったけれど、女手ひとつで育ててくれた母に、これ以上経済的な負担を負わせる訳にはいかなかった。
けれど勉強が目的ならば、絵本の読み聞かせ目当てに子供達が多く集う日曜夕方の図書館は、あまり向いているとは思えない。
ならば、わたしが図書館に向かうのは何故?
読みたい本を好きに買える経済力はあるし、今のわたしにとって軒並み読み尽くした市営図書館は決して目新しい場所ではない。それでもわたしは、たまの休みになればそこに足を向ける。
だって、あの場所には彼がいる。特別会話をする訳じゃない。彼はただ、穏やかな笑みをたたえてそこにいる。
物心ついて図書館通いを始めた時から変わらずに彼はいて、わたしがそこに行きさえすれば、いつだって彼に会える――。
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