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就職をして五年が経った。この間、わたしの図書館通いも変わらずに続いていた。
そうして同じ年数、わたしは同僚の男性とお付き合いをしている。
これまで幾度かプロポーズをされていた。けれど名家の彼に対して、片親という引け目もあって、なかなか頷く事が出来ずにいた。
けれど男性からの五回目のプロポーズで、わたしはついに頷いた。
「お母さん、わたしね、結婚する事にしたの」
わたしは真っ先に病院に向かい、病床の母に報告した。この頃、母は末期がんに侵されていて、余命幾ばくもない状態になっていた。
最近では意識が混濁している事も多く、意思疎通は難しい状況だった。
けれどわたしの結婚報告に、母は痩せ細った体を丸くして、さめざめと泣いた。酸素マスクを付けて、ただでさえ苦しいはずの息を切れ切れにして、母は泣く。
「や、やだお母さん、そんなに泣かなくてもいいよ! ねぇお母さん、余計に苦しくなっちゃうから、ね?」
肩を擦って取り成すが、母の涙は止まらなかった。
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