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母が、わたしの結婚を喜んでくれている事は間違いなかった。けれど尋常でない母の様子は、わたしの目に、ある種異様にも映った。
「お父さん……」
え?
それが果たして実際の声として、結ばれていたかどうかは自信がない。
けれどわたしの目には、酸素マスク越しの唇が「お父さん」と、そう声を紡いだように見えた。
「お父さん?」
母が呼んだお父さんというのは、もしかしてわたしの父親の事だろうか?
母は未婚でわたしを生んでいて、わたしに戸籍上の父はいない。
これまで母から、父の話を聞いた事はなかった。わたしは自分の事を、望まれず実を結んでしまった命、そう理解していた。
けれど酸素マスクに耳を寄せてみても、母は苦し気な嗚咽を漏らすばかり。母から答えが返る事はなかった。
……あれ?
これまで、切れ切れに嗚咽を漏らしていた母。その息づかいが、段々と弱くなっているような気がした。
ピーッ! ピーッ!
そんな違和感を感じた次の瞬間、母の枕元に置かれたモニターから、突如警告音が響き渡る。
「え!? お母さん大丈夫!?」
見れば、母の酸素濃度が危険水準に下がっていた。
慌てて母の枕辺に縋る。
すると目の前の母が、突然グリンと白目を剥いた。
「えっ!? ちょっ、お母さん!?」
……わたしはこの後の事を、あまりよく覚えていない。
ただ、医師や看護師がバタバタと走って来る足音を聞きながら、母に向かって何事か叫び続けていたように思う。
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