後編

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気付いた時には母は、とても軽く小さくなって、わたしの腕にすっぽりと抱かれていた。 御骨箱というのが、こんなにも軽いという事に、わたしは驚いていた。 「行こうか」 「うん……」 わたしは婚約者の男性に肩を抱かれ、火葬場を後にした。 わたしには、母以外に縁がない。 だから葬儀はせず、わたしの手でしめやかに見送る。 ふと、空を仰いだ。 「え、お母さん? ……っ!?」 晴天の空に、母が浮かぶ。だけど浮かぶのは、母だけじゃない。 母の肩を抱くのは、よく見知った図書館の彼……! 二人の姿は晴天の空に薄く浮かび、その輪郭は吹けば消えてしまいそうに頼りない。けれど彼は、わたしに温かな眼差しを向けていた。 見つめ合う、わたしと彼の視線が絡む。 その時、ひとひらの風が、ふわりとわたしの頬を撫でる。風はわたしの胸に優しい温もりを残し、通り抜けてゆく。 ……ああ、そうか。 胸にストンと、理解がおりた。 彼は、わたしの誕生と成長を見る事叶わずに逝った父。 わたしと視線が合えば柔らかに微笑み、いつだってそこにいた。 けれど思い返せば、わたし以外の利用者が彼に目を向けた事は一度だってない。わたしとも間近に顔を見合わせた事は皆無。 いつだって一定の距離をもって、そっと視線を交わすだけ。 そう、わたし達はいつも目線を合わせるだけ。それもほんの一瞬の後、彼の姿は何処かに消えてしまう。 落ち込んだ時、辛い事があった時は、励ますように笑う。嬉しい時には蕩けるみたいに笑う。それはまるで、わたしと一緒になって喜んでくれているかのようだった。 ……そう、そうか。 ずっと、見守ってくれていたんだ。 父親らしいことをしてもらった訳じゃない。だけどこの瞬間、わたしの胸は父の深い愛で満たされていた。
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