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「大丈夫?最近調子悪そうだけど」
声をかけられ、ハッと我に返る。
同じ塾の峰君、中学は一緒だった、が心配そうな表情を浮かべていた。
あの日どう家に帰ったのか記憶がない。ただ、怖くてあれ以来あの道を通れていない。だって、気付かれた。私が彼女に気付いていたと。
だからって、何かあると決まったわけじゃない。現に、今のところ何事もなく過ごせている。それでも、彼女のあの表情が目に焼きついて離れなくて。
「夏バテ?」
「………かも」
曖昧に笑って誤魔化す。
本当のことなんて言えやしない。やっぱり気のせいだったんじゃないかって、思い込みたいから。
「本当に大丈夫?………何か、心配だし、今日オレ送ってこうか?」
突然の申し出に、思わずじっと見つめる。
「あ、いや、加賀ん家って大通りの先、ちょっと横入ったとこだったよな?今日あっちの方に用事あるし………その、途中まででも。もちろん迷惑だったら」
「ううん」
慌てて首を横に振る。
「ありがとう。………その、嬉しい」
「そ、そっか。良かった」
嬉しいと、その言葉に嘘はない。けれどどうしてか彼女の表情が過って。こんな状況じゃなきゃ、もう少し純粋に喜べたのに。
やっぱり気のせいだったと安心したい。もしかしたらもういないんじゃないかと期待している。一人じゃあの道を通るのが怖くて確認できない。でも、一緒に来てくれる人がいるなら心強い。
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