くちなし

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 大丈夫。きっと、もういない。そう、自分に言い聞かせたのに。 (まだ、いた)  彼女は変わらずそこにいた。  花柄のフレアスカートに赤いシャツ。相変わらず俯いていて、表情は見えない。見えないことに、少しだけ安堵する。 「加賀?」  どうかしたと訊ねられ、少し悩む。 「………あそこ。向こう側の」 「ん?」 「………花柄の」 「花?………あぁ、あの真っ白な花?」  ゾッとした。 「加賀?」 「………何の花かなって、思って。それだけ」  一刻もはやくこの場を離れたくて、峰君の腕を引く。  心臓がバクバク言ってる。頭がガンガンする。息がしにくい。  だって、見えてないんだ。峰君には、彼女の姿が。私には、見えているのに。何で。どうして。他の人には見えてないんじゃって気はしてたけど、本当にそうだったなんて。霊感なんて、ないはずなのに。 「大丈夫?」 「………うん」  ちらりと振り返って彼女を見る。何だろう。今、何か違和感があったような気がするのだけれど。 「………最近、ちょっと根詰め過ぎたのかも」 「あっ、じゃあさ」  思わずといった大声に驚いて、じっと見つめる。一瞬固まった峰君は、次いで視線をさ迷わせた。 「その、気晴らしでも、どう?」 「気晴らし?」 「そう。ほら、週末、夏祭りあんじゃん?一緒にどうかなって。いや、もちろん他にも誰か」 「いい」  食いぎみに答えてしまった。驚いた峰君に見つめられる。ちゃんと目を見て言おうと思ったけど、何となく気恥ずかしくて地面を見る。 「二人、が、いい」 「っ、そ、そっか」 「うん」  会話が、少し途切れる。 「何か、さ」 「うん?」 「その、二人で、行ってさ、誰かに見つかったら、噂とか、されそうだよな」 「………峰君と、なら、いい。………いや?」 「………オレも。加賀となら、いい」  お互い照れくさくて、笑みを浮かべる。言葉はなく、ただ自然と手を繋いだ。  そうしてまた、彼女の表情が浮かぶ。  今、私の隣には峰君がいる。彼女はずっと一人だ。待ち人は来ない。それなのに、どうして。
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