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「大丈夫?」
「うん。ありがとう。ごめんね」
「いや。もっとはやく気づけば良かった。………浮かれてて。ごめん」
祭り会場を少し外れた所で座って休んでいる。先程まで峰君が背中をさすってくれていた。
「人に酔ったみたい」
「ビックリした。まるで幽霊でも見たみたいに顔が真っ青で」
それは、間違いではない。
「霊感とか、ないから」
「だよな」
そのはずなのに。
「何か冷たい飲み物買ってくる。ちょっと待ってて」
「うん。ありがとう」
峰君が去って、深く息を吐き出す。膝の上に肘をつき、両手で顔を覆った。
彼女は、見つけたんだ。探し人を。これでもう、あの道を通っても彼女の姿を目にすることはない。それはとても安心できることのはずなのに。
あの時の彼女の表情が焼きついて離れない。今は、どんな顔をしているのだろう。気になるけど、何も考えたくない。
瞼を閉じて思考を中断していると、じゃりっと土を踏む音が目の前で止まった。
「あ、ありが………」
慌てて顔を上げようとして、固まる。
視界に入ったのは白い素足。そして花柄の。
ごくりと、息を飲む。何で彼女が。喧騒が遠退く。頭がガンガンする。動いちゃダメだ。見てしまったら。そうしたら。
わかってるのに。
強烈なまでの甘い匂いに、思考が侵される。その匂いの中に別の、喉の奥にこびりつくような匂いが僅かに混ざっていた。
ぽたりぽたりと、何かが滴る。
彼女の表情が気になって仕方ない。ダメだって、わかってるのに。見たくてたまらない。我慢が、できない。ゆっくりと、視線を上げる。花柄のフレアスカート。赤く染まった白いシャツ。そして、彼女の表情は、
彼女は………
「加賀!」
弾かれたように、声のした方を見る。ペットボトルを持った峰君が駆け寄ってきた。
「お待たせ。どうかした?」
「ううん。何でもない」
視線を戻す。彼女の姿はもうなかった。地面に滴り落ちた赤い液体も。
「どうする?具合悪そうだし、もう少し休んだら帰る?」
「でもせっかく来たんだし、せめて」
花火だけは見ていきたい。そう続けようとして、意識が別の方へ向いた。
「加賀?」
「何かあっち、騒がしくない?」
「え?あ、本当だ」
会場の一角に、不自然な人だかりができていた。警察だとか救急車だとか、そんなことを叫ぶ声が聞こえる。
「何かあったのかな」
何があったのか、私は知っているような気がした。
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