中古のFAX

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 あの女。何も気づいていないような顔して。むかつく。加藤は「そちらこそ別れてください」と打ち込もうとして――ふと、顔を上げた。  見知らぬ女が加藤を見下ろしていた。スマホの液晶ライトに照らされたその顔は真っ白で血の気がなかった。女の口がゆっくりと開いた。 「たすけて」  あのFAXの声だった。  気づいたら朝になっていた。加藤は出社しなかった。提出しなければならなかった請求書は奥さんが手書きでなんとかやるだろう。加藤が入る前にはそうしていたのだから。  社長の連絡先を全て削除、着信拒否に設定し、加藤は二度と彼にもその奥さんにも会わなかった。もしかしたら、と加藤は思う。あのFAXは奥さんにシンパシーを感じていたんじゃないかと。今となっては知る由もないが。  あれから加藤は昭和昭和と馬鹿にするのもやめた。そもそも平成ももう終わる。
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