チョコレートはいらない

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 偶然姿を見つけたあの瞬間、俺はまさか過ぎて反射的に声をあげた。そしてお姉さんは顔を上げてこっちを見て……目が合うのは二回目だった。一回目はドキドキして一瞬で逸らしたけれど今回は驚きすぎてじっと見てしまった。くりんとした、猫みたいな綺麗な目。態度から察するに、お姉さんは俺に気づいていた。俺はそれが嬉しくてでもどうしたらいいか迷って、でもそこで彼女は黙ってしまって……俺と会ってしまったことに困ってるようにも感じた。そりゃそうだよな、初対面に近いわけだし。とりあえずここは俺が話さなきゃ、そう思った。 「いつも朝会いますよね」  ドキドキしたけど思った通りに言えた。しかも、スムーズに、笑顔で。それがきっかけで俺たちは緊張しながらも初めて会話をしようとした。でも人の流れに休みが終わるのを思い出し、明日に持ち越しか……と思った。大丈夫、まだチャンスはある、そんなことを考えていたらまさかお姉さんからまた会えるか、なんて聞かれてしまい。  びっくりした、でもすごく嬉しかったし、やった、って思った。多分明日も会えるって分かってるのにそうやって聞いちゃうほど、気にしてくれるなんて思わなかったから。でもそんなの面に出したらガキっぽいのでまた明日、と約束をした。そう、ちゃんと約束した。だから、明日。会釈だけ、とかじゃなくってきっと今日の続きができる。  どうしよう、連絡先交換までこぎ着けたいけどそんなのできるだろうか? 仕事前だし少し話すだけ……にはしたくない。いや、今日みたいにきっと進展がある。っていうかしてみせる、俺ならできる。 「で、その少女マンガはどんなよ?」  突っ走って思いを巡らせてると小林は興味津々といった様子で聞いてくる。俺は話そうとして――しかし風景は浮かぶのにうまく言葉が思いつかなかった。 「……運命」 「運命?」  小さな俺の声を小林が拾った。 「なんて思えちゃったくらい、俺にとっては衝撃的。だって俺滅多に昼コンビニ寄らんじゃん? もー全部話したい。話していい?」  聞く聞く、そう言う小林に安心しながら俺はゆっくり、最初を思い出しとつとつと語りだした。
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