チョコレートはいらない

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「今日の日替わりはイマイチだったなー」 「そうなんだ、美味しそうだったのにね」 「って、自分はいつものトマトクリームだったじゃん!」 「だってそういう気分だったんだもん」  そんな会話を交わしながら、私はミルクくんの話題に戻るのを期待していた。けれどいつまでたっても戻りそうにない。いつになったらジャッジは下されるのか。 「あのさ」  やきもきした私はリップを塗り直す五十嵐に声を掛けた。 「やっぱ難しいかな」  五十嵐の手が止まる。それから、くるくる、と回してリップをケースに閉まった。 「何が?」  そして、きょとんとした表情でそう言った。 「何、ってさっきの」 「さっき? ああ、ミルクくん? まさか狙ってる?」 「狙ってるっていうか……」  私は濁しながら心底呆れていた。さっき前のめりで質問していたのは何だったんだ? こっちは真剣に悩んでるっていうのに、なんか適当だなあ。 「ミルクくんなー、ダメなんじゃない?」  そのうえばっさり、袈裟斬り。 「だってさ、話聞く限りただ時間が被ってるだけの人じゃん? そこまで関心持つ?」 「だって実際私が気にしてるじゃん」  あ、言ってしまった。恥ずかしいからぼかすつもりだったのに。 「やっぱ狙ってるんだ?」 「そんなのどうでもいいでしょ」 「だって久々の恋愛じゃない? 放っておけないって」  さっきまで適当に聞いてたくせに。私は眉間に皺を寄せる。 「でも諦めた方がいいと思うな~」 「えっ」 「えっ、じゃないよ。叶うと思ってんの?」 「なんとなーくは……」 「なんとなくもないって。もういい年なんだからさ、そういう夢見るのやめたら? つまらない日常ときめきたい気持ちも分からなくもないよ? でもミルクくん、ろくでもないガキかもしれないじゃん」 「そんなことないよ!」 「言い切れる? 何も知らない、コンビニで会うだけの男に」  そう言われてしまったらもう黙るしかない。 「とりあえず戻ろ」  そうして五十嵐は席を立ってしまった。
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