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怒ってる訳じゃない。むしろ五十嵐は心配してくれてるんだ。……そう思えても、納得はできなかった。
帰り道、私は五十嵐を先に行かせていつものコンビニに寄った。ちょっと切なくなった分、チョコが足りなくなりそうだったから。
私はため息を吐きながら慣性の通りに通路を曲がり、チョコレートのコーナーに向かった。
「あっ」
頭上で男の人の声がした。私は顔を上げる。
「えっ」
ミルクくんだ。私の目の前に、チョコを持ったミルクくんがいる。そして二人見つめ合って固まってしまっている。だって、こんな時間にこんな場所で会うなんて思わなかったから。言い訳がポンと出た。きっと反応を見る限りミルクくんもそんな感じなんだろう。
と、いうことは、だ。ミルクくんは私のことをちゃんと認識している……。
なりとチョコレートの嗜好しか知らない、顔見知りよりちょっと遠い人。それが、今この一瞬で声を知り、お互い認識していることを知ってしまって、意識しすぎてどうしたらいいか分からない。中学生か? 心の中で突っ込んだ。
ミルクくんが私をちゃんと認識してるなら少しは勝算もあるのだから、何かアクションを起こせばいいのに、それができない。胸にペンは刺さってるし、メモも持ってるんだから、ささっと連絡先を書いて渡せばいい。ストレートに携帯でしたっていい。そんなの一瞬でできるのに、それができない。
恋してるからだ。
認めてしまおう。より良い生活が、とか充実とか、そんなの建前。私、ミルクくんにただ恋してる。まるで、少女のように。だから、ネガティブな反応を返されるのが怖くて動けない。ガツガツして、引かれて、明日以降会えなくなるのが怖いんだ。
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