チョコレートはいらない

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「あの」  このままじゃどうにもならないのを察したのか、ミルクくんが口を開いた。想像よりも低い声。ちょっととろんとして甘ったるい。そんな幼さもミルクチョコレートみたいだなんて思えてしまう。どうしよう、じわじわ情報を得るほどどんどん彼のことが好きになってしまっていて。もっと話したらきっともう引けなくなる。だから、自分からどうすることもできない。 「いつも朝会いますよね。お昼も買うんですか?」  そう言ってミルクくんはにっこり微笑む。ほんわかした、優しい笑顔。だめだ、好き。もうそれしかでてこない。どうも、とか適当にやり過ごせばいいのにわざわざそんなふうに話し掛けてくるのは興味がある証拠か、それとも単に人が良いのか暇人か。少し疑いながらもどこかでパンパンに期待を膨らませてしまっている自分がいる。 「今日はたまたまで……」  肝心なその先が出てこない。で、そちらはいつも? とか、このチョコ美味しいですよね、とか何かしら次に繋げる一言を言いたいのに、思い浮かびはするのに、怖くて言えない。ただただ、甘くほろ苦いチョコレートの味が口に広がる。  そのとき、人が流れるように出ていくのを見て、ミルクくんが腕時計を見た。反応するように、私も時計を見る。 「すみません、行かなきゃ」 「あ、私も」  もともとあまり余裕は無かったのだ。もう急いで戻らなきゃいけないような時間にもうなってしまっていた。連絡先の交換する間も、レジに並ぶ時間すら無い。ミルクくんはチョコを棚に戻した。
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