チョコレートはいらない

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「ごめんなさい」  出口に向かいながら反射的にそう言っていた。私がチョコがなければ効率ダウンするみたいに、ミルクくんにとっても必須エネルギーなのかもしれないのに。 「大丈夫です、予備のつもりだったんで」  そう言うので見上げると、ちょっと悪戯っぽく笑っていた。それが少年みたいでかわいい、なんてキュンとしてしまう。どうしよう、本当に好き、好き。一時の高熱にうなされてるだけかもしれない。でも、この瞬間は本物だ。だから。 「また」  私は会釈して背を向けようとするミルクくんに思い切って声を掛けた。逃したくない。この恋、叶えたい。 「……また、会えますよね?」  振り向いたミルクくんはきゅるんと目を丸めて……それから溢れるような笑みを見せた。 「はい、また明日」  私はほっとしてふにゃりと笑う。普段なら外でしないような気の抜けた表情をしてしまうのは、それだけ嬉しかったから。小さく手を挙げる彼。私もそれに返す。それだけで十分に満たされてしまう。五十嵐とのこともなかったみたいに満たされていく。ミルクくんを見送った私は早足でオフィスに戻る。ミルクくん、やっぱりいい人じゃん。すごく可愛いじゃん。めちゃくちゃ好きじゃん。  明日の朝は名刺を渡そう。メモの方が気楽でいいかな? とりあえずIDを書いて、メッセージから初めてみよう。  気持ちみたいに早足も加速する。取り戻した恋の感覚にわくわくする。今日はもう、チョコレートなんていらない。いや、きっと家に帰っても。だって沢山彼を補充できたから。
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