第三章

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「...僕的に右より、左に行く方が建物ありそうだけど」 後ろから来た黒い乗用車が、ウインカーを立て左へ曲がる。 「...そうしましょう」 しばらく歩くと、堂々と構えている図書館が現れた。 これでもかってほどに大きい文字で中央図書館と記してある。 七星くんの意見に従っていて正解だった。もし右に行っていたら今ごろ、何もない道路でうろうろさまよっていたことだろう。 「ありがとね」 「いや、私は迷いかけたので何も役に立ってないです...」 「いいのいいの」 そんなやりとりを過ぎ行く人がちらりと見る。 「あ、私..その中に...」 人に気を取られ言葉が淀んだ。 「長くなるけどいい?」 これだけで察してくれたとは。読み取りの速さに感心しながら頷く。 館内では迷わずに進んでいく七星くんのあとを、そそくさとついていく。 本が密集した場所に滅多に行かないから、無駄に緊張してしまう。 「なんかめっちゃ静かですよね」 足音一つも許さないような緊迫した空気。 「こんなもんだよ」 そう言って気楽そうに笑う。 花図鑑のために、地元の図書館を巡っているんだろうか。 「探してる本があれば探しましょうか?」     
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