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コツンっ。
踵に固くて丈夫そうなものが当たった。重たい体をゆっくりと起こし、それが何なのか確認する。
学校で借りてから一切見ていない花図鑑だった。
何気にページを開いてみたけどスグに閉じて、充電器に繋げていた端末を手に取った。
300ページあるのを手間かけて探すより、調べたい事柄を検索かけた方がスムーズだと思ったのだ。
「夏輝ー」
携帯画面と花図鑑との両方を吟味しているときに呼ばれた。
「七星くんって子が来たよー!」
「あ!すぐ出るー!」
花のことをまじまじと調べている姿を見られては恥ずかしいので、何事も無かったかのように図鑑を閉じて、画面も消した。
作業をするわけでもないので、私服に着替えて家を出た。体操服に馴染んでしまい、今の格好がやけに落ち着かない。
「なーつきちゃん」
七星くんは作業する気だったのかレインコートを着用している。今日に限って何も無いんだよね。
「あれ、夏輝ちゃん今日は作業お休み?」
申し訳なくて声も出さず頷いた。
「あ、そうなの?じゃあ今日はいつもよりいっぱい話せるんだね」
恥ずかしげも無く、ケロッとそんなことを言えてしまうなんてずるい。
「そうかな」
嬉しいねなんて可愛いこと言えるはずないから、返答に困った。
「あ、雨当たらない所にでも座る?」
継ぎ接ぎで言葉を繋ぐ。
小さな木製のベンチ。その上に素朴に佇む三角形の屋根。
「こんなのあるんだね」
「お爺じゃんが作業の合間に休憩したいから作ったんだって、昔ね」
「よくできてるなぁ」
「そんな見渡しても汚いだけだよ」
「あ、おじいちゃんのことけなしたー」
「違うよ!」
慌てて両手を振るとクスクスと笑う。私も釣られて笑う。もう先程の照れはどこかへ消えていた。
「七星くんよ、七星くんよ」
「どしたの」
「ごっほん」
私は今日調べてた花のことを言いたくて、講師っぽくごほんと咳払いをしてみた。本当はここで眼鏡なんかもあげちゃったりしたいわけで。
「今からわたくしの講義をよく聞き」
「ん?講義?」
おかしい様子を見たように、くすりと笑う。
「そこ!笑うでない」
「わかったよ」
「君の誕生花はご存知か?」
「知らないです、先生」
「うむ、そう思ってなわしが調べてきたんじゃ」
言われた本人は不思議そうに首を傾げている。
「名前はミモザ。マメ科の花らしい」
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