第三章

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「ミモザ...?...あ、黄色くて丸い花?」 名前だけでどんな外観か分かるとは、流石七星くん。ただ今日の私は負けてないぞ。 「うむ。原産地はオーストラリア、開花時期は2月から4月」 スラスラと言えたことに優越感に浸りながら、話を続けた。 「日本では明治頃に街路樹として咲いてたそうだ、テストに出るぞ」 「そのキャラ何とかしてくれない?まともに話が入ってこないよ」 そう言いながら笑ってる七星くんを見ると、どうもやめる気になれない。 「キャラ?これが素なのだ、仕方ない」 「ミモザしか覚えてないよー」 「えー、嘘でしょー」 「ほんとー、開花時期が春とか知らない」 「覚えてるじゃん」 「それだけはね」 なんだ、結局花に関してだったら覚えれてるんだ。このままだったら私の方が物知りだったのに、と心の片隅で残念に思う。 「花言葉は?」 「それもちゃーんと調べましたー!」 「なになに」 「秘密の恋」 恋、と声に出すだけで心臓が跳ねた。何を動揺しているんだ、私。 「怪しげだね」 そんな私に察することなく、さらりと返された。 「いや、でもどこかでは公式に愛している人にミモザを渡す日なんてあるんだよ」 「ふーん」 興味無さそう。七星くん、こういうのあまり好きじゃないのかな。 「僕、秘密事って嫌いなんだよね」 「え?」 「秘密にしたっていいことないもん。相手が悲しくなるだけだし」 あまりにも真剣な顔だから見入ってしまう。 「秘密っていつか絶対バレるから」 「でも好きとかって恥ずかしくて言えないよ」 「僕は好きなら好きとか嫌いなら嫌いとか、白黒はっきりさせたいな」 いつもの穏やかな顔に戻っていた。 「何事も治る治らない、分かるはずだから」 「治る?」 時折、あ、と小さく声を漏らし、怪我とかね、と付け加えた。 「いきなり怪我の話なんて面白いね、七星くん」 「いやぁ変なキャラしてた夏輝ちゃんの方が面白いと思うけどなぁ」 あ、すっかりそのキャラのこと忘れてた。 ゴッホん...ごホッ。 さっきより一回多く咳払いをし、「脱線してしまって悪かったなぁ」と顔を渋めた。 「もう分かったよー」 そういっても肩を揺らすから悪いんだって。いつも笑ってくれる君がいるから安心してふざけられる。 なんて、私は臆病だから秘密にしちゃうんだよ。
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