第一章

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部屋が暗い。いつもなら日光はカーテンをお構い無しに通すのだが。しゃっと勢いよくカーテンを開けた。雨が数百本あるりんごの木に降り注いでいる。あ、そうか。今日から梅雨だって言ってたっけな。 「あれ?」 いつも5時起きのお母さんなら、もうとっくに仕事を始めているはずなのに、その姿が見られなかった。忘れるはずないんだけど。 寝室に行くと、額に熱冷まシートを貼ったお母さんがいた。 「お母さん、大丈夫?」 「熱は大丈夫なんだけどね...りんごの様子が...」 「うーん...」 (しばら)く悩む。あ、これ私がしたらりんごの様子も見れるし、私の夢が叶えられるし一石二鳥だよね! 「私がしようか?」 躊躇(ためら)われるかと思ったら、案外すんなりと受け入れてくれた。 「やり方わかる?」 「うん!だいじょーぶー!」 そのまま部屋を抜け出し、作業しやすい服に着替えて家を飛び出した。 穏やかな雨粒が透明のレインコートを弾いた。今から私は農家の人なんだ! 軽い足取りで1本の木へ向かう。 「.....?」 未熟な果実が5つ。真ん中の実以外は全て取り除くのだが..。その区別がつかないなんて思わなかった。こんなことになるならお母さんの説明聞けばよかったな、とどうにもならない後悔をする。 仕方ない。自分で見分けよう。
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