第四章

2/11
前へ
/32ページ
次へ
梅雨が明けると嫌いな夏が来る。 蝉の合唱が毎日聞こえるし、直射日光で皮膚が痛いくらい日差しが強いし、大量の汗をかくし、嫌なこと満載だ。 それに加えて今年はもう一つ、夏が来てほしくない理由がある。 すぐ横にある窓を眺めた。 今日はまだ空から雫が滴り落ちているが、今週末からは晴れると気象予報士が言っていた。 きっとそれからは、雨が降っていた日々が虚偽だったかのように、夏に飲み込まれてしまうのだろう。 「谷口さん!」 担任の呼ぶ声が近くで聞こえ、現実に引き戻された。 「外にかっこいい人でもいた?」 女性特有の回りくどい言い方に不快感を覚える。 「...いえ」 クラスメイトの数人の目線と微かな笑い声。 「学習じゃないからとはいえ、授業なんだから前を向くこと」 「...はい」 「それに文化祭はみんなで一つなんだから、人事だと思わない」 「......」 「ほら、黒板を見て」 黒板に書かれた意味のわからない複数の文を流し読みした。 買い出しだの荷物運びだの店番だの、当日の準備係と思しきことが書いてある。 「どれがいいか挙手してもらってたの。あなただけよ、まだなのは」     
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加