第四章

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「じゃあ言うよ」 相手に気持ちを伝えるみたいに心臓がドキドキと脈を打っている。 顔に熱が籠る。ただ、これからのことを訊くだけなのに。 スゥー、と息を大きく吸った。肺に酸素が大量に送られたところで、勇気を出して訊いてみた。 「...夏休み来るかなって..」 想像以上に早口で、想像以上に声が小さくなってしまった。 こんなんじゃ自分の首を閉めているようだ。重たい空気を自ら醸し出して、何してんだ。 「......」 分かっていた。七星くんは私の友達でも、特別な人でも何でもないって。雷の中での作業を手伝ってくれただけでもありがたいこと。 なのに私はそれ以上を求めようとした。非常識だな、私。 「...ご、ごめん!嘘です」 無理やり笑った。今にでも雨に紛れて落涙してしまいそうなのを押さえ込んだ。 「ノリなの!ノリ!」 どれだけ言っても顔を上げてくれなかった。 あーもう私、嫌われちゃったかな。 それから何も言わず雨音を聞いていた。 「夏輝ちゃん」 「はい」 数十秒経ってからようやく顔を上げた七星くんの目が潤んでるように見えた。光の加減でそう映っているだけだろうか。 「僕、夏休みは来れないよ」 分かってたことでもハッキリと言葉で聞いてしまったら余計胸に刺さる。 「知ってるよ」 「夏輝ちゃんが嫌いとかじゃなくて、理由があるんだ」 「理由...?」 「......ここにいれない」 漠然とした理由だけじゃ、なんにも理解ができない。それは引越しなのか、ここに来てはいけないと怒られたのか、外に出られないとか。 「それはどういう意味....?」 「言葉のまま」 そういってよいしょと立ち上がった。 「あとすこしの間だけど、仲良くしてよ」 私より大きくて、私よりも白い七星くんの手が目の前に突き出される。 「ほら、手」 それを拒めずに思わず手の平を重ねた。
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