第一章

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数分間こいつを眺めたが、検討つかず。もう、どうでもいいか。悩んでたって時間の無駄だし摘み取りからしよう。 ゴロゴロゴロォー。 遠くの方で雷が鳴った気がしたので、作業をしていた手を止めた。作業に集中していたのか、地面を叩きつける音が激しくなっているのに気付かなかった。何かの間違いかと思い、目線を花に戻した刹那。重低音が曇天に響き渡る。なんでこんなタイミングに雷がなるのよ!! お昼のあとも作業を続けた。お母さんは相当心配そうな顔をしていたけれど、りんごの為なら大丈夫だなんて言った。勿論安心づけるための嘘だ。音が聞こえるたびに泣きそうになってるんだから。 「...大丈夫ですか?」 背後から聞こえた男性の声。心臓が止まりそうになる。 「あ、ごめんなさい、あの...」 私の背後にいたのは、同年代くらいの男子。話によると、偶然ここを通りかかって、怖がっている人がいたから手助けをしてあげようと思ったらしい。 「...いやあの、大丈夫ですか?色々」 「はい!家が農家なんで!」 雨を弾いてしまいそうな笑顔に圧倒され、頷いてしまった。そんな棒のような体で作業できんのかって聞きたかったのに。 「これ、テキトーにしていったらいいんですか?」 「まあそうですね」 「おっけーです」 鼻歌を歌いながら作業している目の前の男子を見ると、私の方が面倒くさがっているように思える。私だって、雷鳴ってなかったら楽しくやっていたんだよ。すべては雷のせいだ。 「リンゴの花って可愛いですね」 突然、こいつ何を言い出すんだ。 「僕こういう小さくて、可愛い花がいると守ってあげたくなるんです」 意味が分からない。いや、言葉の意味は分かるが理解ができない。 「あれ?何も思わない感じ?」 「え?うーん」 理解し難い内容だが、一応視線を花に移してみた。やっぱり守りたいとは思わない。私が無言で花を見つめている間も、男の子は饒舌に話した。 「向日葵は一人で生きてけそうだなって思うけど、桜や杏などは誰かに守ってもらわないとすぐに折れちゃうと思うんだよね」 熱弁する花愛好者に目を向けた。目の前の白い花を、そんな愛おしく思うなんて。私には分からない。
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