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雨特有の匂いが私の鼻を覆う。土のくぼみにできた水溜まりに堕ちた水が、円を描いて波を打っていく。木の葉を微かに揺らす風。
あまりの心地良さに、まどろみの中へと誘われていく。
「何してるんですか」
聞き覚えのある声に目を開けた。
少しばかり意識がとんでいたようだ。
「この前の人...」
「そうですけど」
再度眠りにつこうとすると半ば強制で立たされた。お蔭で急に目が冴えた。
「作業僕も手伝いますから」
「いや、そんな悪いです」「傘、邪魔だなあ...」
言葉がかぶり、戸惑っている間には傘を地面に向け、閉じようとしている。
「あ、あの、服!濡れますよ」
「大丈夫だよ、気にしないで」
遠慮なくぱらぱらと降る雨が、グレーのパーカーにどんどん模様を描いていく。
時間の経過と共に目の前の男の子のパーカーはダークグレーに染まる。ふさふさしてそうなくせっ毛だってしんなりしている。
「くしゅんッ」
「寒いんですよね」
「いや、大丈夫...クシュッ」
猫のようなくしゃみで可愛い、と外れたことを思う。私なんかただのおじさんだから、間違ってもくしゃみはできない。
「ハンカチ、いります?」
3回目のくしゃみに流石に可哀想に思い、ズボンのポケットから黒のハンカチを出した。
「え、いや」
「あ、別に汗とか吹いてないですから!」
慌ててそう言うとクスッと笑い、ありがとうと感謝される。
「小さいハンカチなんかで申し訳ない...」
「いや、だいぶ助かるよ」
濡れた髪を一生懸命拭いてるけど、髪の濡れ加減があまり変わってない気ががする。それでもこの人は拭き続ける。
「あ!」
「どうしました?」
「名前何ていうの」
そうか。結構話してるけど、まだ名前言ってなかったけっな。
「ナツキです」
「おぉ季節の名前入ってていいね」
「そうですかね...誕生日10月ですけど」
「あれ?そうなんだ」
親の好きな季節ってだけらしい。名前に夏なんて入ってるけど、夏を好きだと思ったことがない。むしろ冬の方がいいくらいだ。
「あ、僕ナナセです」
「ナナセって響き、いいじゃないですか」
「ただの7個ある星ってだけだよ」
「あ、それって...」
星の名前で何かあったはず。でもそれがなんというのかがさっぱりわからず、しち、しち、と呟いた。
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