第二章

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雨特有の匂いが私の鼻を覆う。土のくぼみにできた水溜まりに堕ちた水が、円を描いて波を打っていく。木の葉を微かに揺らす風。 あまりの心地良さに、まどろみの中へと誘われていく。 「何してるんですか」 聞き覚えのある声に目を開けた。 少しばかり意識がとんでいたようだ。 「この前の人...」 「そうですけど」 再度眠りにつこうとすると半ば強制で立たされた。お蔭で急に目が冴えた。 「作業僕も手伝いますから」 「いや、そんな悪いです」「傘、邪魔だなあ...」 言葉がかぶり、戸惑っている間には傘を地面に向け、閉じようとしている。 「あ、あの、服!濡れますよ」 「大丈夫だよ、気にしないで」 遠慮なくぱらぱらと降る雨が、グレーのパーカーにどんどん模様を描いていく。 時間の経過と共に目の前の男の子のパーカーはダークグレーに染まる。ふさふさしてそうなくせっ毛だってしんなりしている。 「くしゅんッ」 「寒いんですよね」 「いや、大丈夫...クシュッ」 猫のようなくしゃみで可愛い、と外れたことを思う。私なんかただのおじさんだから、間違ってもくしゃみはできない。 「ハンカチ、いります?」 3回目のくしゃみに流石に可哀想に思い、ズボンのポケットから黒のハンカチを出した。 「え、いや」 「あ、別に汗とか吹いてないですから!」 慌ててそう言うとクスッと笑い、ありがとうと感謝される。 「小さいハンカチなんかで申し訳ない...」 「いや、だいぶ助かるよ」 濡れた髪を一生懸命拭いてるけど、髪の濡れ加減があまり変わってない気ががする。それでもこの人は拭き続ける。 「あ!」 「どうしました?」 「名前何ていうの」 そうか。結構話してるけど、まだ名前言ってなかったけっな。 「ナツキです」 「おぉ季節の名前入ってていいね」 「そうですかね...誕生日10月ですけど」 「あれ?そうなんだ」 親の好きな季節ってだけらしい。名前に夏なんて入ってるけど、夏を好きだと思ったことがない。むしろ冬の方がいいくらいだ。 「あ、僕ナナセです」 「ナナセって響き、いいじゃないですか」 「ただの7個ある星ってだけだよ」 「あ、それって...」 星の名前で何かあったはず。でもそれがなんというのかがさっぱりわからず、しち、しち、と呟いた。
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