聖夜の星空は見えない

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 マフラーを軽く巻き直して、ポケットに手を入れる。マフラーが風にゆらゆらとたなびく。こんな寒いなかでまともな思考が働くようには思えない。  僕の通う私大は川辺に建っている。それも川を挟むような形で。川の大きさはそこそこ大きいと思う。反対側にいる人が適度に小さく見える程度だから、数百メートルというところだろう。  僕が普段居る側の校舎は所謂、理工学部という理系関係の講義の場だ。川を挟んだ街側(駅側とも学生は呼んでいる)は文学部・教育学部・法学部が本拠地を構えていて、本学と公式ではされてるが、文系舎とも呼ばれていたりする。  文系舎に用事があった僕は、今は理工学部棟の目の前の河川敷を歩き終え、対岸に行くために橋を渡ろうとしていたところだ。  寒さに耐えかねて歩みが早足になる。ぼんやりと灯され始めた街灯を見ていると、今にも消えそうな自分みたいで、なんでこの大学にしたのだろう、とそうふと我に返るときがある。  文系より理系だったこと、家が近いこと、そんな理由でこの学部を選んだことを覚えている。もう早いもので、入学して二年だ。  いや。もうひとつ言い逃れできない理由がある。誤魔化せない理由がある。  彼女が居たからだ。彼女と言っても恋人ではない。一方的な片想い。     
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