第三話 山の蕎麦屋

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第三話 山の蕎麦屋

 蕎麦好きの芦立(あしだて)さんが体験した話しだ。  企業相手の空調設備の販売をしている会社に勤めている芦立さんは営業で全国各地を車で回っている。  20代から初めて現在37歳だ。彼此15年以上のベテランである。各地を回っているので自然と名産品を食べる機会も多い、美味しいものを色々食べてきた芦立さんだが一番好きなのは蕎麦だ。シンプルでいて奥が深い、水が違うのか蕎麦の実が違うのか、配合や打ち方も違うだろう、出汁も昆布出汁や鰹節に鯖節、トビウオなど魚介類から椎茸やその他の野菜など、使っている醤油に至るまで全て違っていて味は千差万別だ。  それほど蕎麦好きの芦立さんがもう一度だけ食べたい蕎麦があると言う、食べたくても食べれない蕎麦だ。  10年前のことだ。営業で東北地方を回っていた芦立はある山の中で道に迷っていた。  今と違いスマホで簡単に現在地をナビゲーションすることなど出来なかった時代である。そもそもスマホも出回り始めで芦立は持っていない、折畳み式の携帯電話を使っていた。  車にもナビゲーションは積んでおらず紙の地図だけが頼りだ。 「電波届いてないなぁ」     
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