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僕の双子の兄である海晴と、僕たちが連れてきた歌乃という少女に、
「それじゃあ」
と手を振って別れた後、まっすぐに部屋に戻った。
自室の扉を前に、横目でちらりと二人を振り返ると、歌乃だけがこちらをじっと見ていた。
その視線には気付かない振りをして部屋の中へと急いだ。
どきりとした。
早鐘を打つ心臓を、服の上から押さえつけるように胸を鷲掴む。
何故、歌乃は僕を見ていたのだろう。
どうして・・・どこか僕は、不自然だっただろうか。
彼女の視線は苦手だった。
とても静かで、弱々しいくせにゆるぎない瞳。
黒く、昏く、深い夜の海を思わせるような瞳。
鏡のような瞳に心の中を見透かされてしまうような気がして、すこしだけ怖くなる。
僕の不安も恐れも、醜ささえも突きつけられるようで、吸い込まれそうなあの眼を合わせることを躊躇う。
なのに、惹かれていた。
とても暖かな瞳。まるで包み込まれるような温かさ。
優しい色、不思議な輝き。
彼女の瞳は、どこか安心する。まるで、亡き母のような。
だからつい、目で追ってしまう。
気付かれないように、そっと。
無駄だとわかっているのに。
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