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店は日中は奥さんが、夜間はご主人の麿さんが店番を勤め、ほぼ毎日飲み物やら惣菜やらを買いに来ていた俺は、当然の様に二人と顔見知りになっていった。
「学生さん、野菜もちゃんと採らなきゃダメだよ。ジュースでもいいからさ」
「新発売のサンドイッチ、いいわよぉ。栄養もボリュームもたっぷり」
「ちょっと待ってて。この弁当、そろそろ10%引きにできるから」
奥さんは、とにかく世話好きな人で、あれこれホントに良くしてもらった。明るくて快活でおしゃべりで、田舎の母を彷彿するところが多くって、俺は勝手に「東京の母」と心の中で呼んでいた。
反対に、ご主人の麿さんは、物静かでおっとりとしたタイプの男性で、雅な印象さえ感じられる紳士だったので、親しみと尊敬の念を込めて「麿さん」と呼んでいた。これまた心の中で。
「何か他に、ご入用はありませんか?」
買い物のレジで、麿さんに最初にそう聞かれた時は「?」となった。「ごいりよう」?「ごいりよう」とはなんぞやと。口を開けて「?」マークを飛ばしていた俺を見て、麿さんは雅に微笑むと無知な俺に説明をしてくれた。
「あー、すみませんすみません。若い人は使わないですよね『ごいりよう』なんて。『何か、足りないものはありませんか? 』って意味なんです」
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