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「お父さん、“気になる人”じゃないよ、“木に成るひと”だよ。」
「え!?」
ぼくがそう言うと、お父さんはなぜか気味の悪そうな顔をずっとしていて、下山するときもずっと、あたりをキョロキョロしながらおそるおそる山を下りていくのだった。
お父さんはどうしてそんなに怖がるのだろう。
きちんとあいさつを返してくれるのは、なにもふつうの人間だけではないのに。
人間の中にはきちんとあいさつを返してくれない人もいる。
けれどもこのひとたちは、いつもぼくらを包み込むように、おおらかな声でやさしい返事をしてくれているのだ。
ぼくは山を下りてから、最後にさよならと声が聞こえたので、ありがとうと、その“きになるひと”にあいさつを返したのだった。
遠くの方で、かすかに木霊のよろこぶ声が聞こえた。
おわり
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