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父が歩き出すとわたしは離れる。振り返り父が詰める。それを繰り返して百貨店に入る。冷蔵庫みたいに冷えた店内。
呼吸が楽になる。
「エスカレーターでいこう」
わたしが言うとエレベーターに向かおうとしていた父が振り返りわたしのあとを追いかけてくる。
「若いな」
父の言葉を無視してわたしは浴衣売り場の階まで振り返らずに登る。
ただひろにあったら、告白しようと決めている。
花火大会の日。
ずっと好きだったのだと、上目遣いに照れながら告白する自分が一番可愛く見える浴衣はどれだろう。
ハンガーにかけられた浴衣を次々に手に取る。
浴衣がいいと思っても、セットでついている帯が気に入らなかったり、これにしようと思い鏡であわせてみると似合わなかったり、思っていた以上に時間がかかった。
父は少し離れて見ている。
何にも言ってくれないの? 言われたら嫌だけど言わないのもなんかちょっと。
二つに絞って店員のお姉さんに相談する。
「どっちもお似合いですけど、こちらのほうが大人っぽく見えますね」
大人をはじめることに決めた。父を手招きして呼び「これにする」と報告する。
「こっちにすると思ったよ」とわかったような顔で財布からカードを出す。
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