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狂おしいって言葉を何かで見た。いつかどこかで使ってみたいなと思ってた。
使おうと思って使えるものじゃないなって思ってた。きっとこれがそう。
狂おしい。狂おしいほど。
「いいね、夢があって」
「夢っていうか、目標。あ、はじまる」
どこかからカウントダウンの声が聞こえてわたしたちは空を見る。
すうっと登る細い光の先に突然開く閃光。
打ちあがるたびに明るく照らされるただひろの顔。
視線は花火を見ていたり、見ていなかったり。
シャツから伸びる日焼けした腕。筋肉。
時々こっちを見て「綺麗だな」なんて笑わないで。
生地のかたい新しい浴衣。お腹が苦しい。ううん、胸。ちがう、心。
「上から見ても花火って丸いの、知ってた?」
「そうなの」
想像をめぐらせる。でもすぐやめる。知らないままでいたかった。
にっこり笑った顔の形やら、ハートやら、大きいのやら小さいの。
煙たい。火薬のにおい。燃えたあとの。
わたしを見ないで。
まぶしいくらいのクライマックス。
フィナーレに歓声をあげる。
終わってしまった。全部。
立ちあがり歩く道は人でいっぱい。
時々ただひろがわたしの腕をつかんで引き寄せる。
「大丈夫?」って訊く。
全然大丈夫じゃないよ。泣きたい。
混んだ電車に乗り込む。目の前にただひろの胸。近すぎ。
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