まんじう、こわい

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ぐるぐるぐると1周、また1周と思考をめぐらせた後、ええい、ままよ。躊躇せず触れてしまおうと決意した瞬間、彼の境遇を思い出す。持ち前のスキルを買われ、新しいプロジェクトチームのために上層部に抜擢された、やってきて間もない有能なメンバー(らしい)彼。ここで関係を悪化させるのはよろしくない。喉まで出かかった指摘はひとまず呑み込んだ。 「そのお饅頭、部長のお土産なんですけど、おいしいですよね。」 「...甘いです」 「...まぁ、そうですね」 正論。いやでも、饅頭って世間一般的には甘いものだから。てか、あなたが今食べてるのは饅頭の中身の餡だけだけどな。 心の中で突っ込むのも疲れたので、わざとらしい営業スマイルをひとつ残し、デスクに向かい、休憩明けの溜まった仕事を再開した。処理を進めながら、隣の彼をちらりと見やる。饅頭を食べ終わった彼は、ぽけーっという擬音がぴったりな表情でPCに向かっている。え、大丈夫?起きてる??有能ってデマなのではなかろうか…? 思考が再びトリップしかけ、彼の評判を疑い始めた私だが、ふと我に返る。これ以上彼にとらわれている場合ではない。 気を取り直して、手元の書類に向き直る。 ....その直後、背後に気配。 「…ここ、間違えてますよ」 「ぴゃっ!?」 素っ頓狂な声を抑えきれず、振り返ると、背後霊のきょとんとした顔と目が合い、あまりの近さに心臓がはねた。 初夏の昼下がり。 となりの男に気疲れする日々は、まだ始まったばかりだ。
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