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見当たり捜査
駅前はまるで大きな口のように開き、通勤ラッシュの混雑を飲み込んで行く。
その人の流れは家畜の大移動を思わせた。
獲物を狙う狼のように私はその流れを凝視する。
しかし、ただ流れゆく人の流れはメトロノームのような一定のリズムを作り、来た当初に比べ集中力は削がれて行く。
私は思わずあくびをした。
マズいな。
前日、捜査資料を遅くまで確認していたシワ寄せが、今になって来始めた。
私、小山内巡査部長は、七三分けで整えた髪型に紺色のジーンズに黄色いシャツで、警察官と悟られぬよう一般人に溶け込んでいた。
深緑のジャケットを重ね着し、地味な服装を演出する。
目をこすると、隣から厳しい声が飛ぶ。
「退屈なら帰れ」
反射的に背筋を伸ばして自身を律する。
「すみません」
隣には前髪が後退し、おでこの面積が広い白髪の男性が、同じように花壇の縁に腰を据えていた。
老体の男は膝まで丈が伸びる、黒いコートを着込み、茶色いのズボンという服装で、こちらも目立たない地味な格好だ。
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